
【Iさん宅】
●土に触れる暮らしを求めて
東京の下町で育ったIさんと静岡県出身の奥さんは、長年道内で転勤生活を送ってきました。
そして16年前、北海道に赴任。
「人を包み込むようなやわらかな空気と自然にあふれた土地柄に、たちまち魅せられた」ご夫婦は6年後、北海道に居を構えることを決意しました。
「自然をより間近で感じながら、土に触れる生活がしたい」と、奥さんは農業者として2000坪の農地も購入しました。
さらに、「土に還る自然素材の家に住みたい」と考え、「こういう生活がしたいと相談したら、一度で思い描いたとおりのプランが提案され、これからの暮らしを託そうと思いました」と、Iさんは振り返ります。
●理想がゆっくりと現実になる
新居は、土間のあるLDKと中心にした木造2階建て。
田園風景を大胆に取り込んだ開放的な空間には、パイン無垢材や珪藻土など自然素材がふんだんに用いられていました。
ところが住み始めて一家が直面したのは、頭に描いた理想とは違う生活でした。
運び込んだ家具は小さすぎ、大きな窓からは家の中が丸見え…。
「長年、狭いのが当たり前の曲がり生活でしたから、開放感がありすぎる空間に慣れなくて、どこか落ち着かない感じがしました」(Iさん)
専業主婦から農業者になった奥さんの毎日も一変しました。
畑仕事に追われ、家事もままなりません。
「4年以上の歳月を経てようやく、ありのままの自然体で暮らせば良いと思うようになりました。諦めと開き直りが身につきました」と奥さん。
今ではフラリと立ち寄った知人を招き入れ、10人ほどで食卓を囲むことも日常茶飯事。
もてなしのテーブルには、奥さんが丹精した野菜をふんだんに使った料理が並びます。
「最初は広すぎると感じたリビングも、今の私たちの毎日には丁度良いサイズ。これからの人生をより楽しくしてくれる大切な場所になりました」と、奥さんは言います。
●生活の証を刻む楽しさ
牧場や畑が連なる田園地帯に溶け込むように建つIさんの家。
風雪に表れた道南杉の外壁は、庭の木々やハーブ類、草花の成長と歩調を合わせるように少しずつ侘びた色に染まってきました。
ご夫婦が望んだ自然素材の住まいは、暖かな質感の一方で、傷や染みがつきやすいのも特徴。
新築から4年以上のときが経過した今では、床や壁は陽に焼けて赤みを増し、田園暮らしの格闘の痕跡ともいえる傷が刻まれています。
「新築当時は、白い木肌に傷がつくたびにドキッとしました。でも、これが僕らの生活の証だと思ったら、傷の一つひとつが何だか愛おしくて。家は日々の積み重ねの中で、育てていくものなんですね。引渡しのときに、『これから長い付き合いになりますよ』と言った意味もようやくわかりました」
古時計が時をゆったり刻む大きな三角屋根の下で、一家の暮らしは地域の人々との結びつきを深めながら、豊かに育まれていくことでしょう。
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