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町家暮らしをはじめてちょうど10年になります。

町家暮らしをはじめてちょうど10年になります。

4年前に転居した今の家は昭和のはじめに、大店の離れとして建てられたもので、茶室があり、去年、国の登録有形文化財になりました。

築84余年の家での暮らしは、想像以上に大変ですけど、それ以上に楽しく、日々是発見。
いろんなことを京都から、町家から教えてもらっています。

京都の町家には、夏を少しでも涼しく楽しく暮らそうという、先人たちの暮らしの知恵がいっぱい集まっていて、エコ・節約のヒントがたくさんあるんですよ。

その一つ、“建具替え”というのをご存知でしょうか?
ひとことで言えば、家の衣替えです。
夏用に家の間取りや、内装を替えるんです。
大工道具なんか使いませんよ。
日本家屋の建具というのはかんたんに取り外せますから。
襖や障子を払い、夏用の建具、葦障子(葦戸)や座敷簾(御簾)に替える。
あるいはお蔵のあるような大きな町家では、座敷には“網代”という籐の敷物を、部屋全体に敷いたりもします。
もしかすると京町家がいちばん美しいのは、この夏座敷かもしれませんね。

洛中に居ながらにしての別荘。
そのくらい部屋の様子が、がらりと変わります。
旧暦の頃は衣替えと同じ6月1日が建具替えの日でした。
新暦だとおおよそ7月上旬ですね。
今でも6月1日にする家もありますが、うちは6月末から7月上旬までの、お天気のいい日に夫と2人で行っています。

町家にもいろいろ種類があるんですが、雑誌なんかでよく取り上げられているのは、職住一体の“表屋造り”と呼ばれるものです。
表から、店の間、坪庭、座敷、座敷庭、蔵と奥に続いていく。
あんまり細長いもんだから、俗に「ウナギの寝床」なんて言ったりします。
この奥に続いていく部屋の仕切りには壁が使われていません。
すべて取り外しの利く障子や襖です。
これが先人たちの知恵なんです。
夏はこれを外し、葦障子に替えることで、表から奥まで風がすーっと通り抜けるようになるわけです。
あと京都の町家は軒がとても深いんですが、これも強い日差しが入らないための工夫です。
京都の町家は大昔から夏を涼しく過ごせるよう造られているんです。
夏の涼の基本は日光を遮り、風を入れる。逆に冬は風をシャッタアウトする。
これだけでずいぶん違うものですよ。


とはいえ、エアコンなしで、室温を下げるというのには限度があります。
昔の人たちというのは、五感をフルに働かせて、涼を感じていたんだと思います。
心で涼を感じるのは無限大ですからね。

目でずいぶん「涼」というのは感じられるものです。
たとえばうちの客間は10畳と8畳なんですが、夏はその間の襖を払って、座敷すだれを両端に掛けるだけ。
20余畳をひと部屋のようにして使っています。
部屋を広々と見せることで、涼感をつくるわけです。
“網代”という敷き物を部屋全体に敷くのも、その効果があります。
畳のヘリが隠れると、ずいぶん雰囲気が変わります。
あと夏の座敷には「もの」をあまり置かないのもポイントかもしれませんね。

そして暗さ。
夏は仄暗いほうが涼しく感じます。
そこで効力を発揮するのが、葦障子です。
この葦障子は驚くほど、日光を遮ってくれます。
葦がつくる陰影が木陰を連想させるからでしょうか。
エアコンの涼にはない「癒し」の空間が出来あがります。
それと葦障子から透けて見える庭。
部屋の暗さと、夏のまぶしい庭とのコントラストが、
心を静めてくれる。「透け感」というのも、夏は大切にしたいもののひとつですね。

夜も夏は照明を明るくしないのがポイントです。
祇園祭の宵山のときに、ある旧家に遊びに伺ったとき、
ご主人から教えていただいたのですが、夏は白熱灯のワット数を1段階、落とすんだそうです。
ふだん60ワットなら、40ワットにする。そのほうが庭の石灯籠に灯す明かりも、映えるんだそう。
うちでも夏の客間は40ワットにするようにしました。
あと、お客さまをお迎えするときは、和ろうそくを使ったりします。
ろうそくの炎の熱さより、陰影からくる涼感のほうが凌駕するから、不思議です。

次に色でしょうか。
うつわや座布団やテーブルクロスなども、夏は涼しく見えるものを優先して使うようになりました。
寒色とよばれる、水色とか藍色とか、緑などの色。
それからさきほどの「透け感」とつながりますが、透明なものですね。
季節を取り入れた暮らしをしていると、色を見ているだけで、無意識のうちに、山や谷、
氷などを連想するんですね。

そして涼を心で味わう。
つりしのぶや風鈴、金魚鉢というのも、同じですね。
うちは水盤によく梶の葉を浮かべたりしています。
あと水を張ったバカラのお皿に朝顔の花を一輪、置いたり、青もじみをあしらったり。
夏は花かざりも、
数や、花の種類を控えるほうが、涼しく感じるような気がします。
これ、マンション暮らしの方にもお薦めします。
涼しいだけでなく、気分転換、「おうち遊び」になります。
ドアやカーテンを替えたりするのはたいへんだけど、ラグとか、テーブルクロスとか、ソファのカバーとか、夏用のものにするだけで、ずいぶん雰囲気が変わるんじゃないでしょうか。


大きな町家(表屋造り)では座敷と次の間は、二つの庭(坪庭と座敷庭)に挟まれています。
離れとして建てられたわが家も、やはり客間は二つの庭(茶庭と座敷庭)に囲まれています。
庭に挟まれていれば自然と風が通るかといえば、さらあらず、です。
風は待つのではなく、自分で作るもの。
これも町家暮らしをして覚えたことです。

そこで登場するのが打ち水です。
打ち水というのは、清めるという精神的な意味合いもあるんですが、水が打たれた庭、石や緑というのは、本当にみずみずしく美しい。
渓谷を連想させてくれます。
そして夏は庭を冷やす、風を起こしてくれます。
うちの庭は大きな石が置かれているので、夏は素足では歩けないほど、石が熱くなります。
水を打てば、気化熱で涼しくはなりますが、この打ち水にもちょっとしたコツがあるのです。
最初のうちは何も知らなくて、両方の庭ともびしょびしょになるくらい、ホースで水を撒いていました。
風というのは温度差で起きます。
どちらか一方の庭を冷やせば、その温度差から起きた風が、家の中を通り抜けていきます。
これも目からウロコでした。
エアコンは、家の中は快適にしてくれますが、室外機から熱風を吐き出します。
ところが打ち水は、まず外を涼しくして、それを家の中に取り込むんですよね。
気温、室温といった数字にはない、心地いい風、涼しさがあるのです。
戸を開け放っていますから、涼しい音も入ってきます。
坪庭には棕櫚竹(しゅろちく)を植えることが多いのですが、これはこの扇のような形をした葉がさわさわと音を立てるからです。
わずかな風でも
心地いい葉ずれの音を奏でてくれる。
風鈴と同じです、風を音で伝えてくれるのです。
先人の知恵、おそるべしですよ。


そんなわけで暑さは何とか凌げるのですが、蚊だけはどうにもなりません。
網戸がありませんので、夜も開け放って寝ますから、蚊は当然入ってきます。
寝るときだけは蚊取り線香だけでなく、蚊帳を吊っています。
最近はベッド用の蚊帳が出ているのをご存知ですか。
わが家は、布団ではなく、ベッドなのです。
蚊帳なんてダサいと思っていましたが、実際は、そんなことはなく、和風の天蓋付きのベッドといった感じです。
少々、高価ですが、本麻のものを使っています。
麻は吸湿性に優れているんですね。
ですから湿気を吸い取る役目も果たしてくれて、一石二鳥なんです。
昼寝をするときも心地いい。
うちではもっぱら昼間は猫がここで寝ています。
猫は家の中でいちばん心地いい場所をしっていますからね。


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2009年10月08日 11:31に投稿されたエントリーのページです。

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